ある吸玉カッピング療法の研修会で、40歳台後半の男性が実習モデルを引き受けてくださいました。初めてお会いした方なので、体の具合などはわかりません。

実習のモデルは、体力のない方の場合には疲れてしまうこともあり、注意が必要です。とりあえず病歴をうかがうと、血圧やコレステロール値などが高かったが、吸玉カッピング療法と黒酢の飲用でだいぶよいとのこと。

血走ったような赤い目は、なるほど心臓の症状を思わせました。そして、顔全体や唇は赤黒く沈んだ色調で、腎臓にも問題がありそうでした。この色と内臓(臓腑)の関係は、「五臓の色体表」で確認してみてください。

 また、場合によっては肝臓や脾臓にも色素反応が出るかもしれない、などの思いも頭をよぎりました。

 さて実際の背中の色素反応はというと、最も強い反応は腎臓部、次いで心臓部でした。肝臓・脾臓には多少の色素反応がある程度で、そのほかは問題ないようでした。

 吸玉カッピング療法に長年親しんでいる方々の中には、吸引圧50~60といった強い吸着を好む方も少なくありません。しかし、こういった強い吸着は相当に施療慣れしていないと厳しいものがあります。また実習の場合には、説明をしながら吸着させるために時間は長め、吸引圧は弱めで行うことが多くなります。時間と圧を一定にすることで比較し、判断をするわけです。今回の場合も吸引圧は30程度だったと記憶しています。

 実習は、背中の内臓反応部の色素反応と「五臓の色体表」の見方を組み合わせる形で、うまくお伝えできたと思いました。なにしろ目や皮膚の「赤」「黒」といった、「五臓の色体表」に載っている色の情報が、背中の内臓反応部の色素反応と一致していたのですから。しかし、問題はこの後だったのです。

脾経『太白』および腎経『水泉』に吸着。
それぞれ2号、3号のカップを吸着。
どちらもはずれやすい部位なので、ゴム管を
つないだままの連続吸引がよい。

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背中から腹部、そして足へと実習をすすめていくと、モデルの方が、実は痛風で足が痛いことがあると訴えました。

 痛風は、美食や飲酒、肥満や筋肉量が関係する、肝臓や腎臓の代謝性疾患とされています。また、足に尿酸が結晶化して強い痛みをおこしますが、多くの場合、足の親指のつけ根の内側、脾経太白(たいはく)付近で痛みます。

 痛風の「風」を東洋医学的に肝臓の病いと考えると(「五臓の色体表」の五悪を参照)、現代医学との一致をみますが、足の症状は脾経に現れることが多く、脾臓の病いでもあります。さらに今回のケースでは、背中の色素反応では腎臓や心臓の反応が強く、これまた不一致なのです。

 釈然としないまま、「太白」の位置を解説しました。そして、痛みには局所的な瀉血が効果的なこと、瀉血療法は法律的に問題があること、カップを吸着できないほど強い痛みがあることなどをお話ししました。すると、モデルの方が、「私が痛いのは、その場所ではありません」と言うではありませんか。

 この言葉でピンときました。やはりこの方が最も注意すべきなのは腎系統だったのです。痛風の痛みは脾経「太白」付近だけでなく、くるぶしの内側、腎経(すい)(せん)付近でおこることもあります。

 今回はまさにこのケースで、足の痛みである経絡の症状は、背中の内臓反応部の色素反応の結果と、どちらも「腎」で一致していたのです。一般論でしかない教科書的な知識にしばられて、体全体の視点を見失ったと反省させられました。

 たとえ病名は同じであっても、一人ひとりの状況は同じではありません。大切なのは病名ではなく、そのひと個人にとって「今、何が必要か」ということだと思います。

 「病気よりも病人を癒す」ともいわれている東洋医学的。今回の背中の内臓反応部の色素反応は、このことを目に見せてくれた、と感じています。