「カゼは万病のもと」といいますが、この言葉の出展は中国最古の医学書「黄帝内経」の「風は百病の始めなり」という句だそうです。この「風」は、「五臓の色体表」五悪の欄の「風」でしょうから、本来は単なるカゼという意味を越えた広い意味であったと思います。

また、「風邪」と書いて「カゼ」とも読みますから、よけい混乱を招いていますが、これも東洋医学的に「ふうじゃ」と読みたいところです。

東洋医学でいう「風邪」は、ほかの邪である「寒、熱、湿、燥」に先行して体表や上部を侵し、そのほかの邪と結びついてさまざまな症状を起こすとされています。この意味での「百病の始め」ということなのでしょう。

 また、症状も頭痛や悪寒発熱といったカゼ(感冒)の初期症状だけでなく、痒み、痛み、シビレなどの知覚異常や移動性の症状、ケイレンやめまい、意識障害なども含み、神経痛や筋肉のトラブルにもつながっていきます。脳卒中を「中風」というのも、「風邪に中(あ)たる」「風邪に的中、貫かれる」の意味になります。

 それはともかく、今回はカゼ(感冒)について述べてみたいと思います。

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カゼは、早めの休息と適切な処置や栄養補給をおこなえば、遅くとも一週間前後で治まるのが普通です。ところが仕事などの都合で充分な休息がとれなかったり、体力が低下していたりすると長びいてしまうようです。

 カゼの初期には、ゾクゾクと寒気のする場合がよくあります。このようなとき、普通レベルの体力の持ち主でしたら、足湯などで汗を出してしまう方法があります。体力に問題がなければ、入浴も差し支えありません。寒気には温まることが気持ちよいですし、むしろ汗を出すことで体もスッキリします。

 また、このようなときの吸玉カッピング療法は、肩背部や後頭部がよく効きます。とくに、肺の反応部でもある督脈「大椎(だいつい)のほか、同じく督脈「風府(ふうふ)」、膀胱経「(ふう)(もん)」、胆経「(ふう)()」などの「風」の文字がつけられたツボがよいとされています。これらの位置は、寒気やこれに伴う筋肉の引きつりを感じる場所と一致していて、ツボの名称のおもしろいところです。

 東洋医学においては、このようなカゼの状態を「風寒の邪」によると考えます。「五臓の色体表」の五悪「風」や「寒」が、前述のツボが所属している胆経と膀胱経に、それぞれ対応していることも確認してみてください。

 ただし、この施療で注意していただきたいのは、寒気から熱感へと症状が変わることがあることです。この熱感は免疫系が活躍している証で、カゼが治るプロセスの一環なのですが、人によっては病状が悪くなったと誤解してしまったり、体力のない方の場合にはグッタリしてしまうこともあります。

 これらの懸念を考えると、吸引圧は弱めのほうが無難かもしれません。

 カゼも次の段階になると、さまざまな症状が現れてきます。咳や鼻水などの症状には肺経や大腸経、消化器系の症状には胃経など、症状にうまく経絡を対応させて施療するとよいと思います。

 熱が続く場合には三焦経の腕のツボ、原穴の(よう)()などがよいようです。また、前述の大椎(だいつい)や三焦経天髎(てんりょう)から思いきって瘀血を出すことで高熱が下がったこともありますが、この方法には基礎体力が必要であることに注意してください。

 なお「大椎」は肺の反応部であるだけでなく、膀胱、胆、大腸、三焦、小腸の各経絡の交わるツボで、カゼのときにも要になる施療点だと思います。