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 金切り声をあげ、手当たり次第に物を投げつける。まるで絵に描いたような夫婦げんか。そして悲劇は、奥様がご主人につかみかかったときに起こりました。何のはずみか、奥様の左薬指に激痛が走ったのです。

痛みはやがて治まりました。しかし、薬指の第一関節は曲がったまま。手をにぎる動作は正常なのですが、手をひらくと薬指だけがまっすぐになりません。また、他動的には抵抗なく伸ばせますが、支えをはずすと曲がった状態にもどってしまいます。

病院では、指の腱が切れているので手術でつなぐ、といわれたようです。

「手術はイヤ! 怖くてできない!」

ご主人に挑みかかった元気もどこへやら。

「でも、指が一生このままだったら…」

以上が、施療室に来られるまでの経緯です。

 腱が切れているのならば、いかな吸玉カッピング療法でもこれは無理な相談でしょう。しかし、どうしても「手術は怖い」と半べそ状態ですし、一応、指を反らせた形で添え木をあてて固定しました。

 これは本来であれば、私どもの施療の守備範囲を越えています。また、腱が完全には切れていないという、わずかな可能性もないこともないのですが、実のところは無理だろうと思っていました。むしろ、これでダメなら病院へいく旨を約束させるための意味もあったのです。

 吸玉カッピング療法などの施療はせず、その日は帰っていただきました。

この若い夫婦は、翌日もやってきました。特別なことがなければ、もっと先の日にちの約束だったのです。理由を聞くと、腕が痛むといいます。

 指を動かす筋肉は、肘関節の近くまでつながっています。したがって腱鞘炎や弾発指など、手や指のトラブルには手首から肘にかけての部分の施療が欠かせません。

 この方の場合にも、薬指につながる筋肉が引きつり気味になっていました。指を反らせて固定しているという不自然な状態が原因だろうと、あまり深くは考えませんでした。
 次の日、この二人はまたやってきました。痛みが肘まで広がってきた、といいます。確かに筋肉の引きつりも強まっており、この筋肉をねらって吸玉カッピング療法をはじめました。

 カップを吸着すると、その個所は痛まなくなります。ところが次の日、そのまた次の日と、痛みは吸着をしていない肘、そして肩へと広がっていきました。次々と痛みを追いかける格好で、施療していくことになったわけです。

 痛みは、ついには首(側頸部)まで達し、経絡にそって反応している! と思わざるをえませんでした。腱や筋肉だけの問題であれば、痛みは肘までで止まるはず。ところが、この方の症状はこの領域を越えていますし、何よりも「三焦経」のルートそのもので発症していたからです。

 薬指の障害が「三焦経」へ広がっているのか、薬指の障害を「三焦経」が治そうと反応しているのかはわかりません。しかし、経絡に反応がでている以上、前向きに施療しようと思いました。

 とにかく薬指の血液循環をうながすこと! 本命である「(さん)(しょう)(けい)」のほか、となりの経絡である「小腸(しょうちょう)(けい)」、さらには陰陽関係にある「(しん)(ぽう)(けい)」と「心経(しんけい)」も施療することにしました。とくに手首~肘にかけの部位は、ツボは意識せずに、すき間のないようにカップを吸着させるという方法です。

 さて、1週間後に包帯をはずすと、指がややまっすぐになっていました。そして2週間後にはほぼ元通りになったのです。

 これは、大変な幸運だったといえるでしょう。腱が完全には断裂していなかったと思われること、そしてこの方が若く、しなやかな指の持ち主であったことも幸いしていたはずです。私にとっても、身体や経絡の認識を新たにする、よい経験(幸運)でした。

 それにしても、どちらも10代という若いカップル、その後は仲よくしているのでしょうか…。オット! 犬も食わないか。