心包経『郄門』に4号カップを吸着。
手首と肘のほぼ真ん中で、押すと痛みが
あったり、筋っぽい時には治療が必要となる。

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この患者さん、病院の検査では心臓には問題ないといわれている方です。しかし、胃潰瘍の手術をしていて、今回の症状もこのことが主な原因となってのものでした。

 それというのは、胃を切除してしまっているために、食事は少量ずつ、何回かに分けて食べるしかありません。ところが、多めに食べてしまうと心臓が激しく鼓動してしまうのです。

 このことは医師からも注意を受け、本人も何度か体験したことがあるといいます。そしてこの日も、食べ過ぎというにはかわいそうな量なのですが、やや多めの食事直後の施療だったというわけです。

 しかし、なぜ食べ過ぎるとこのような症状が現れるのかは、不思議に思えます。

 胃での消化をうけない一定量の食事が、しかもいちどきに小腸に入ってくるのですから、小腸には相当の負担がかかっていることは想像がつきます。そしてこの小腸の負担を、心臓が補おうとしているのでしょうか。あるいは心臓にも連動して、負担をかけているのでしょうか。

 一見、別々と思われがちな各内臓ですが、何らかの関連をもっているのは確かなことだと思います。

 東洋医学は、内臓同士や身体各部との関連を何千年もの昔に洞察し、体系づけてきました。「五臓の色体表」で、心臓と小腸が同じ系統の臓腑で、陰陽の関係であることを確認してみてください。

 そして、現在は問題ないとされている心臓ですが、いずれは注意が必要になるだろうことも、後日の背中の色素反応で確認することになりました。心臓の反応部にも、色素反応が現れていたからです。

 用意(脱衣)ができたのを見計らって施療室に入ると、患者さんがベッドの上で喘いでいました。突然のことに驚き、脈を診ると、心臓が早鐘のように打っているのがわかりました。

「よくあることで、わかっているので大丈夫です。少し休めば落ちつきますから、救急車など呼ばないで下さい」

ご本人は意外と冷静なようすです。しかし、差し迫った状態ですし、少しでも心臓を落ちつかせるにこしたことはありません。手足の一穴だけ、ということで施療することになりました。

 まず、左右の腕の心包経「郄門(げきもん)」にカップを吸着させました。このときは、後で吸引圧を上げるつもりで、ごく弱く吸着させたと記憶しています。

 場所は、手のひら側の腕の中央ライン上で、手首と肘のほぼ真ん中になります。施療する場合には、腕の太さに合わせて3~4号カップくらいの大きさが適当でしょう。

 心臓に対する経絡は、心経と心包経とがありますが、どちらも大切です。心経は心因性にも通じ、心包経は呼吸器にも通じる、という多少の違いがあるようです。今回は、呼吸への影響も考えて、心包経を選びました。

 また「郄門」は、急性症状に著効があるとされる「(げき)(けつ)という特別なツボにあたっています。

 「郄穴」は各経絡に一つずつあり、それぞれ、肘や膝周辺といった場所にあるツボです。緊急時にも衣服を脱ぐことなく、簡単に施療できますので、覚えておくとよいでしょう。

 続いて、足では胃経「足三里」を施療しようと考えましたが、これは必要ありませんでした。「足三里」の施療準備をしているうちに、心臓の状態が治まってしまったからです。

 狭心症などの重大な発作であれば、こう簡単にはいかなかったはずですが、「郄穴」施療のよい経験をさせていただきました。