40歳台のMさん(男性)は、約束の時間などはおかまいなしに、いつもヒョッコリやってきます。忙しいときには困りものなのですが、笑顔や小太りな体型にどことなく愛嬌があって、軽口のジョークについごまかされてしまいます。
 

美食家にして大食家。毎日ウナギと天ぷらを食べ続けて胆石の手術をするに至った、という武勇伝の持ち主ですが、反省のほどは定かではありません。この日も「食べ過ぎて吐き気がする。何とかして!」と、現れました。 

話を聞くと、ふつうに昼食を食べた後に来客があり、その方と二度目の昼食をお付き合いした、とのことでした。 

吸玉カッピングの施療は背中から始めることが多いのですが、吐き気がするため、うつ伏せの姿勢はつらそうでした。

そこで、あお向けの姿勢で腹部を施療しようと考えました。
 

 腹部の施療では、各内臓(経絡)にそれぞれ対応する「墓穴=ぼけつ」と呼ばれる特別なツボが重要になります。今回は「胃」にポイントがあることは明らかですから、「胃」の募穴である「中脘=ちゅうかん」とその周辺部を中心に施療するのが順当だと思います。 

 「中脘」は、上腹部の中心線上で、みぞおち(鳩尾=きゅうび)とヘソ(臍)のほぼ真ん中になります。まさに胃の位置、胃のツボといった感じがおわかりでしょう。そして周辺部にも、胃に効くツボがたくさんあります。 

 ただ今回は、この「中脘」に5号カップを弱い圧で吸着させただけで、ほかの腹部の施療はしないことにしました。それは,ある考えが頭をよぎったからです。 

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胃経の墓穴『中脘』と周辺部の施療例。
中心が『中脘』。周辺部の施療は、
さほど位置にこだわらなくてもよい。

 今回の症状は、必要以上に食べたことが原因ですから、吐き気は体が不要物を吐き出したい、吐き出そうというサインだとも考えられます。この状況で胃部や横隔膜に強い施療刺激を与えた場合、吐いてしまうこともあるでしょう。 

 確かに吐いてしまえばスッキリするでしょうし、吐くことは決して悪いことではありません。むしろ吐かせることこそが治療、というケースもあるのです。
 しかし、今回は毒物などを食べてしまったわけではなさそうですし、何かと問題のMさんのことです。もし吐いてしまった場合、このことを理解してもらえるのかどうか。むしろ不適切な施療をしたと誤解されるのではないか、という心配がありました。 

 そこで、できるだけ穏便に鎮静させたいと考えたわけです。 

 こういうときに試してみたいのが、患部から離れた経絡上の施療。どの程度治められるのかわかりませんでしたが、

とりあえず胃経
「足三里=あしさんり」を使ってみることにしました。