昭和の話になりますが、吸玉・カッピング療法の推進者であった故・黒岩東五氏が中国へ招かれ、上海中医学院付属病院を訪れたことがあります。そこで、4か月も生理のこない20歳の女性を施療し、その日の午後には生理が再開したといいます。しかもこの女性は、鍼灸などの治療をすでに数か月も受けて、効果のなかった方だったそうです。

 このとき施療したのは、左手の三焦経「三陽絡(さんようらく)」と「四瀆(しとく)」でした。

 三焦経は、更年期障害や冷えのぼせなど、ホルモンや婦人科の病いによく効く経絡です。中指(表裏関係の心包経と連絡する)が曲がってしまってシビレている人が、実は子宮や甲状腺に問題を持っていたことがあります。これなども、ホルモンとの関係をよく表していると思います。

 三焦経は、薬指から手の甲面を肩へと抜け、耳へと連なります(中指については前述)。ただし手首を内側にひねるとズレてしまいますから、吸着する場合には気をつけてください。手のひらを胸に当てて安定させ、腕の中央ラインにカップを当てるようにするとよいでしょう。

 ちょうど手首の関節に、原穴の「(よう)()」、腕の中央やや手首寄りに「三陽絡」、肘寄りに「四瀆」があります。

 カップは、手首は2~3号、ほかは腕の太さに合わせて3~4号ぐらいでしょうか。はずれやすい場合は連続吸引してください。

 また、どうしても空気が入ってしまうようなときには、二又ホースを使い、2個のカップで腕をはさむように吸引するとつきやすいでしょう。 

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 婦人科の病いには、骨盤近くのツボや下腹部へ通じる足の経絡であれば、イメージ的にも効きそうだ、とわかります。ところが三焦経は手の経絡ですから、どうも下腹部からは遠いと思われがちです。

 また、「耳をめぐり、耳中に入る」とされていますから、耳によいことは前回でも触れたとおりです。しかし、これだけでは「ホルモン」や「五臓の調整役」といわれていることとは、うまくつながりません。

 想像なのですが「耳中に入る」とは、脳までを含んでいるのではないでしょうか。なぜなら、全身の機能調節をするのはホルモンや自律神経ですが、その中枢である脳の「()床下部(しょうかぶ)」というところは、耳の奥といってもよい位置にあるからです。

こう考えると、黒岩東五氏が婦人科の病いに三焦経を用いたことや、三焦経の広い働きがわかるような気がしてきます。

 とくに「四瀆」や「三陽絡」などは、発熱やニキビをはじめ、肩コリや首の寝違いとその施療反応(一時的に具合が悪くなる反応)の防止にもなります。

 三焦の背部反応エリア(副腎)の経穴「三焦兪(さんしょうゆ)」は、肘の高さの「腎兪(じんゆ)」のやや上方になります。ここも、膵臓の病いでもある糖尿病で色素反応がでたり、アトピー性皮膚炎で腎とともに異常に冷たくなっていて、驚かされたことがあります。このように三焦経には、大きな可能性があると思います。

 東洋医学は、脳について多くを語ってはいませんが、臓器のない三焦の「働き」に注目しました。そして想像をたくましくすると、この「働き」は現代医学が脳内ホルモンとして注目しているものにも通じているのかもしれません。