以前、「しゃっくり」が3日も止まらない、という患者さんが飛び込んできたことがあります。連日の
深夜におよぶ接待がつづき、「しゃっくり」も酒の席で始まったといいます。

以来、おかげで夜も眠れないとのことで、顔色は青黒く、目は落ちくぼんでギラギラしていました。もはや横柄(おうへい)な態度しかとれないほどの疲労困ぱいぶりです。

背中をみると、肝臓部付近の背骨ぎわに硬いシコリのようなものがあります。とりあえずこの場所と、脾臓部付近に5号カップを吸着させました。

 肝臓部・脾臓部というのは、正式な経穴でいうと膈兪(かくゆ)に相当し、右が肝臓、左が脾臓とする見立てです。ちょうど肩甲骨の下縁の高さですから、わかりやすい場所です。

 通常は全身的に施療するのが基本ですが、今回はカッピング療法の経験がまったくなかったこと、早急に「しゃっくり」を止める必要があったことから、施療はこの2点にしぼり、その代わりに強く吸着させました。

 最初は強い吸引に驚いた様子でしたが、次第に「しゃっくり」の間隔が空いていきます。2分ほどで見通しがついてきたことと、水疱反応を出したくないことから、圧を徐々に弱めていきました。

 10分くらいですっかり治まり、イビキをかきはじめたので、施療は終了。その方は、カップをはずして毛布をかけても気づかず、そのまま30分ほど眠っていました。

 施療は、いつも、こうとは限りません。また、本格的な施療をしたわけではないので、再発の心配もあります。

 ただ、東洋医学の情報を集約した「五臓(ごぞう)(しき)体表(たいひょう)」や、背部の経穴/内臓反応について考える、よい例だと思うのです。

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  「五臓の色体表」では、「しゃっくり」は「(きつ)(ぎゃく)」という言葉で、脾・胃系統の五変に記されています。確かに、脾臓部も施療しています。しかし、脾・胃の場合は、どうも食べ過ぎ的なイメージがぬぐえません。

 今回のケースは、過緊張状態が続いているといった感じで、もう一歩、病的なレベルには入っているように思います。

 「しゃっくり」は横隔膜という筋肉のケイレンです。また、不眠や横柄な態度、目のギラツキなどは、怒りの感情を暗示させます。そしてシコリの位置・・・。これらの情報は「肝」へと集約されてはいないでしょうか。

 やはり今回のケースでは、連日の深酒で肝臓が悲鳴をあげた、といったところが原因なのでしょう。そして酷使された肝・胆が、脾・胃の症状をも発症させる。もしかすると、相剋(そうこく)といわれる関係なのかもしれません。

東洋医学では、補助する関係を「相生(そうせい)抑制する関係を「相剋(そうこく)といって、五臓がバランスをとっていると考えています。そしてこのあたりが、東洋医学をおもしろくも難しくもしているところだと思います。

 しかし、ご安心ください。吸玉カッピング療法の場合は、この難しさを吹き飛ばしてしまう明快さも持っています。色素反応をみることで確認することができるからです。

 背部の色素反応は、臓器自体の疾患はもちろん、病気以前の疲労段階でも反応してくれます。そしてそれは、「五臓の色体表」に示されている関連にも、よく対応するということなのでしょう。

 ちなみに今回のケースでは、肝、脾ともに濃い色素反応が出ていました。

肝臓と脾臓の診断点。
この2点だけが背骨の両側で診断する。
左右の肩甲骨の下線を結んだ線を
目安にするとよい。